カテゴリ:音楽史



2024/07/22
ピアノを習っていると、楽譜を読むことになります。その楽譜には例えば、Allegro(活き活きと、速く)Crescendo(しだいに強く)などイタリア語による音楽用語が用いられています。作曲家がイタリア出身ではなくても、モーツァルトやベートーヴェン、ショパンだってイタリア語で書いています。これは、ヨーロッパのあらゆる文化がカトリック世界の中心であるイタリアから生まれていることに関わっているのです。絵画や彫刻、建築などと同じく、イタリアは音楽の中心地でもありました。フランスやドイツの宮廷には多くのイタリア人音楽家が招かれていましたし、ヨーロッパ中の有能な音楽家はイタリアへ留学しました。 さて、楽譜に音楽用語が記譜されるようになったのは、16~17世紀頃のバロック時代。まずはテンポ表記から始まります。テンポといえばすぐに曲の速さを連想しがちですが、それよりも、アレグロやアンダンテ、レントといったように「雰囲気や性格」を伝えるためにイタリア語で記譜されるようになったと考えられます。それらのイタリア語が用いられるうちに、楽譜上での速度表記として広まっていったのです。偉い人達が集まって「今後は速い曲にはアレグロとつけよ」などと決めた訳ではないのです。古典派の時代になると、作曲家のアイディアを奏者に伝えるために、フォルテやピアノ、クレッシェンドなど強弱記号が記譜されるようになります。この頃には鍵盤楽器の主役はチェンバロからピアノに移行しており、その最大の特徴とも言うべき「強弱の変化」が重要視されるよになってきました。そして、ロマン派の時代にはテンポと強弱に加え、フレーズやアーティキュレーションまで、さらに細かく記譜されるようになっていくのです。 そもそも、五線紙が用いられるようになったのは13~14世紀のこと。今のように通信が発達していない時代。ゆっくり時間をかけて、私達が目にしている楽譜のカタチが作られていったと思うと、一枚の楽譜に壮大なロマンを感じてしまうのです。
2024/07/15
ピアノのお稽古に通い始めると、これまで知らなかった作曲家家の音楽に触れる機会があると思います。そんな時には4つの時代区分を知っておくと、広大なクラシック音楽の世界が分かり易くなります。その4つとはバロック、古典派、ロマン派、近現代になります。最後の近現代はもう少し地域やスタイルで分けて考える必要がありそうですが、ここではあくまで、一般的な時代分けに止めたいと思います。また、現代のピアノレッスンではこの4時代にプラスしてジャズ・ポピュラーも取り入れてコードを勉強しておくと良いですね。 さて、その4時代をとても大まかに説明しましょう。バロック時代の作曲家は宮廷や教会に務めて音楽活動をしていました。所謂、職業人です。あのバッハも教会と宮廷を転々としています。教会では礼拝の音楽を書き、宮廷では様々な儀式や催しのための音楽を書きました。しかし、音楽もしだいに市民階級に広がっていったことで、古典派からロマン派にかけての作曲家は芸術家としての個性を輝かせるようになります。音楽はより人間の感情を表現するようになりました。これが近現代になると、あまりに劇的になり過ぎた感情の起伏は膨らんで弾けてしまい、全く違った趣向の音楽が誕生します。そこからが近現代なのですが、例えばフランスにおいては視覚的なインスピレーションを抱かせる印象派。12の音を素材として扱った新ウィーン学派。アメリカではミニマル音楽や前衛主義など新感覚の音楽も生まれ、音楽って何だろう?そんな問いが作曲家達を新しい音楽へと駆り立てていきました。 今、習っている曲はいつの時代の音楽でしょうか。この4つの時代区分とその歴史的な背景を知っておくと、同じ曲でも違った楽しみが見つかるはずです。

2024/07/14
フランソワ・クープラン(1668-1733)はバッハと同時代にフランス、とくにパリで活躍した音楽家です。ピアノファンの守備範囲からはちょっとはずれてしまうかもしれませんが、素晴らしい鍵盤楽曲をたくさん残しています。とくにクラヴサン曲集の中には今日でも演奏機会が多い「tic toc choc...
2024/06/30
アムステルダム国立美術館に所蔵されているフェルメールの有名な「ラブ・レター」という絵です。リュートを弾いている女性が、背後に立っているもう一人の女性から手紙を受け取った場面を描いています。さりげない生活の一コマですが、この女性の表情からは手紙の送り主が誰なのか、どのような気持ちで手紙を受け取ったのか、想像が膨らみますよね。この時代のオランダは30年戦争の後、独立と宗教の自由を勝ち取り経済的にも大きく発展しました。その結果、裕福な商家等では楽器に親しむ人々も増えていったのです。音楽の年表で重ねると、バロック中期頃にあたります。J.S.バッハが活躍する前、ドイツのお隣の国オランダでのお話です。 ピアノを習ってきた人にとって、バッハは原点という漠然としたイメージがあると思いますが、バロックという大きな流れの中では終着点でもあります。バッハが誕生する以前のヨーロッパ各地に目を向けると、実は多くの作曲家達が足跡を残している事が分かります。この絵からは市民の生活に音楽が入ってきた様子が感じ取れますね。世界史と音楽の関係は面白いです。年内にあと一回「音楽の話」のイベントを計画していますが、その時はもう一度バロック時代の音楽について深堀したいと思います。