ピアノを習っていると、楽譜を読むことになります。その楽譜には例えば、Allegro(活き活きと、速く)Crescendo(しだいに強く)などイタリア語による音楽用語が用いられています。作曲家がイタリア出身ではなくても、モーツァルトやベートーヴェン、ショパンだってイタリア語で書いています。これは、ヨーロッパのあらゆる文化がカトリック世界の中心であるイタリアから生まれていることに関わっているのです。絵画や彫刻、建築などと同じく、イタリアは音楽の中心地でもありました。フランスやドイツの宮廷には多くのイタリア人音楽家が招かれていましたし、ヨーロッパ中の有能な音楽家はイタリアへ留学しました。
さて、楽譜に音楽用語が記譜されるようになったのは、16~17世紀頃のバロック時代。まずはテンポ表記から始まります。テンポといえばすぐに曲の速さを連想しがちですが、それよりも、アレグロやアンダンテ、レントといったように「雰囲気や性格」を伝えるためにイタリア語で記譜されるようになったと考えられます。それらのイタリア語が用いられるうちに、楽譜上での速度表記として広まっていったのです。偉い人達が集まって「今後は速い曲にはアレグロとつけよ」などと決めた訳ではないのです。古典派の時代になると、作曲家のアイディアを奏者に伝えるために、フォルテやピアノ、クレッシェンドなど強弱記号が記譜されるようになります。この頃には鍵盤楽器の主役はチェンバロからピアノに移行しており、その最大の特徴とも言うべき「強弱の変化」が重要視されるよになってきました。そして、ロマン派の時代にはテンポと強弱に加え、フレーズやアーティキュレーションまで、さらに細かく記譜されるようになっていくのです。
そもそも、五線紙が用いられるようになったのは13~14世紀のこと。今のように通信が発達していない時代。ゆっくり時間をかけて、私達が目にしている楽譜のカタチが作られていったと思うと、一枚の楽譜に壮大なロマンを感じてしまうのです。